■トルコ共和国における国際学会報告および資料調査

[期間] 2012年7月31日(火)〜8月9日(木)
[国名] トルコ共和国
[出張者] 阿部尚史(日本学術振興会特別研究員/日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア経済研究所))
[概要]
 報告者は、8月1日(水)から同月5日(日)まで、トルコ共和国のイスタンブル市内(コンラッド・ホテル)にて 開催された国際イラン研究学会 (International Society for Iranian Studies)の隔年国際会議に参加した。 本学会は、北米を中心としたイラン研究に関する最大規模の国際学会である。報告者は8月2日に、“Patrimony, Religion, Society, and Politics in Qajar Iran”というパネルにて、“Continuity of Patrimony and Islamic Inheritance System in Iran: The Case of Najafqoli Khan Donboli’s Family in the Eighteenth and Nineteenth Centuries”と題する発表を行った。地方社会有力者の相続と財産移転を考察した上記の発表を、本公募研究の 成果の一部として行ったのは、18 ,19世紀のイランにおいて相続に際して作成された遺産分割文書や財産目録が、 本公募研究のテーマであるイラン式簿記術と深い関係をもつためである。

 報告者が参加したパネルでは、報告後の議論においてpatrimony やpatriarchal といった語で表現されるものを どのように見るかという論点が提出され、ジェンダーや女性問題に関する視点についても議論がなされた。

 本学会は、イラン研究に関する最も活発な国際的学会であり、古代の文献学、考古学から現代政治、文学、女性問題 などまで幅広く網羅している。しかしながら、18世紀に関する研究報告が極めて少なく、19世紀に関連するものも 近代化や外交関係、立憲革命を取り扱うものにほぼ限定されており、現在のイラン史研究の動向を如実に反映するもので あったように思われる。

 報告者にとってこの国際学会への参加は今回が初めてであり、特に北米のイラン研究者との交流を行うことができた のが大きな成果の一つである。北米のイラン研究者にイラン出身者が相当な比重を占めていること、イランとアメリカ の関係からイラン訪問歴の全くない研究者が見られることなど、研究と政治問題との関係性を改めて認識させられた。 またイランから参加を予定していた研究者のかなり多くが、イラン国内の新聞等で本国際会議に対する批判がなされた ことを理由に、渡航を見合わせることとなったということも付け加えたい。

 報告者の感想としては、上記のような点を踏まえ、イランへの渡航が現在かろうじて可能である日本人研究者の学術的 貢献の可能性は大きいと思われた。また一研究者としては、こうした北米中心の学会とも積極的に交流を持ち続け、 研究成果を積極的に提示することで、国際的な認知を高めていく必要性を痛感した。

 学会後、8月6日、7日には、イスタンブル市内の首相府オスマン文書館とスレイマニエ図書館を訪問した。オスマン 文書館では18世紀にオスマン朝がイランの西部を占領した際に作成した土地、徴税関連史料や、オスマン朝=イラン 関係に関わる文書を調査した。スレイマニエ図書館では、15, 16世紀のペルシャ語史料を閲覧した。

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