■2008年度第2回研究会報告

[日時] 2008年12月15日(月) 18:00-21:00
[会場] 東洋文庫研究部イスラーム地域研究資料室
[テーマ]「オスマン朝軍事リザク台帳の史料的考察」
[報告者] 熊倉和歌子(お茶の水女子大学大学院人間文化創成科学研究科博士課程)

 本発表ではエジプトのカイロ国立文書館に所蔵されている「軍事リザク台帳」について研究史を含めた史料紹介が行われた。

 「軍事リザク台帳」はオスマン朝によるマムルーク朝併合後の16世紀半ばに作成され、19世紀まで実際に利用された史料である。文字はナスヒー体、数字はスィヤーク(トルコでいうDivan Rakamlari)で記された。「軍事リザク台帳」はそれぞれ行政区(Vilaya)単位で編纂され、台帳には農村(Nahiya)毎にリザク地の情報がまとめられている。この史料で特筆すべきは、オスマン朝のみならずマムルーク朝の土地調査記録も併記されていることである。

 マムルーク朝におけるリザクは慈善リザクと軍事リザクの二つに大分される。慈善リザクは慈善目的のために割り当てられた土地収益であり、軍事リザクはアミールやその関係者に年金として付与された土地収益であった。オスマン朝は、マムルーク朝期にワクフ地・私有地化した軍事リザク地について精査するために、土地調査の結果をもとに「軍事リザク台帳」を編纂したとされる。

 「軍事リザク台帳」はマムルーク朝からオスマン朝にかけての土地制度の変遷が俯瞰できる貴重な史料であるにも関わらず、これまで詳細な研究が行われてこなかった。15世紀以降変わっていないリザクの定義の更新も含め、今後の研究の進展が待たれる。

(文責:齋藤久美子/慶應義塾大学非常勤講師)
研究会・報告のトップに戻る