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■2010年度セミナー
[日時] 2011年2月2日(水)15:00-18:00
[会場] 財団法人東洋文庫2階講演室
[講演] 「16世紀オスマン朝の財務関係帳簿」
[報告者] ビルギン・アイドゥン氏(マルマラ大学)
[使用言語] トルコ語(通訳付)
[概要]
報告者のビルギン・アイドゥン氏は、御前会議事務諸局(Divan-i HUmayun)に関わる帳簿の
研究に従事されてきた。しかし、帳簿を分析をするためには、御前会議事務諸局よりもあとで形成
され、膨大な数の財政関係帳簿を作成・保管していた、財務長官府(defterdarlik/bab-i defteri)
とその帳簿の性格を把握することが不可欠である。そこで、今回の報告会では、15世紀から16世紀
までの帳簿制度の歴史的展開と様々な帳簿について、アイドゥン氏に報告していただいた。その要旨
は以下の通りである。
帳簿のうち、帳簿保存局(defterhane)に保管されていた帳簿群に、最も古い時期の史料が含まれ
ている。そのため、これらの帳簿を年代順に整理・検討することで、帳簿保存局の組織と役割はもち
ろん、オスマン朝における帳簿制度の展開が浮かび上がってきた。すなわち、オスマン朝における
帳簿作成は、先行するセルジューク朝、イルハン朝、そしてアナトリアの諸君侯国からイスラーム法官
(kadi)を招聘し、メドレセ教育を導入し、統治機構を整備する過程で受容されていったのである。
このことは、ペルシア語起源の言葉が帳簿で盛んに使用されていること、イスラーム法官に由来する
役職や称号が課税調査(tahrir)のために派遣された調査官(tahrir emini)に多数みられることなど
からも裏付けられる。
帳簿制度の成立と展開は、新征服地の支配と監督、そして特にティマール制に基づく支配体制と、
密接な関わりがあったことを指摘することができよう。帳簿の作成は、年代記の記録によれば、2代目
君主、オルハンの時代にまで遡ることができる。しかし、現存する帳簿で最古のものは、15世紀初頭の
メフメト1世期に属するものであり、15世紀前半までの帳簿は、わずかな課税調査簿(tahrir defterleri)
しか残っていない。続くメフメト2世期は、様々な種類の帳簿が作成され、帳簿制度が確立した時期と
考えられる。例えば、知行支給・監督のための新制度として知行日々支給簿(timar ruzmaname defterleri)
が作成されるとともに、非ムスリムからの人頭税(cizye)と補助部隊(piyade, voynuk, martolosなど)
の帳簿が作成された。さらに、メフメト2世期は、次に述べる財務長官府簿に属する様々な帳簿が作成
された時期でもあった。
財務長官府に属する帳簿では、おもに国家が徴収する税と給与が支払われる集団が扱われている。俸給
関係帳簿(mevacibdefterleri. 軍人・官人の俸給と員数に関わる帳簿)、徴税請負及び税関係帳簿群
(mukataa ve vergi defterleri. 国庫への税収と税源を記録した帳簿)、日々収支関係帳簿
(ruzmaname defteleri. 宮廷費・地方財政・下賜品・大宰相の1年間の収支についての帳簿を含む)、
国庫会計収支帳簿(muhasebe icmal ve butce defterleri. 国家財政・海軍費・宮廷厩舎に関わる帳簿を
含む)などに大まかに分類できる。これらの帳簿は、オスマン朝史研究の大きな特色である、軍事・行政・
財政についての豊かな情報を提供するとともに、オスマン朝統治機構の組織化とその展開を考える上で
重要な情報を含んでいる。例えば、15世紀以降の軍人・官人の員数については、個々の軍事集団や行政
機構の部局ごとにその変遷を追うことが可能である。
今回の報告で取り上げた帳簿は、現在様々な文書館や図書館に分散・保管されており、しかも従来の分類
方法と作成された目録には様々な問題点がみられる。そのため、アイドゥン氏は、これら全てを史料の性格を
踏まえつつ年代ごとに整理した新たな目録を作成中であり、その完成が切に待たれるものである。
文責 今野毅(北海学園大学・札幌学院大学非常勤講師)
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