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(Hinz: 27; A: 19b <22b>)
第5章1
補足と総額の規則
[補足と総額の意味と書きかた]
(Hinz: 28)
(Hinz: 28)[補足すなわち]ハシュウ(ḥashw)2とは原義では「詰め込む(āgandan)」という意味であり、[総額すなわち]バーリズ(bāriz)3は「ハーリジュ(khārij)」すなわち「ある場所から現れる(az
jā’ī sar āwardan)」、「顕れる(ẓāhir
shudan)」という意味である。ディーワーンの人々の術語では、補足は、本当のところそれを述べることが会計官(muḥāsib)の目的なのではないが、それについてなんらかの見解がもたれていたり(naẓarī
dāshta shud)、書記がそれを記録しておきたいと考えていたりする、とにかく目的となんらかの関わりがある数値4や解説のことである5
補足を書く位置は、紙[幅]の6分の4までであり6、[行末が]紙[幅]の中央を少し越すように書き始める。しかし、紙[幅]の中央を越さなかったとしても、それは構わない7。
そして総額は8、それを述べることが本当に目的となっている金額(mablagh)のことである。総額を書く位置は紙の左端から[紙幅の]6分の2のところである。
補足は2種類ある9。1つは、(A:
20a<23a>)総額がそのなかに含まれていない10「絶対的な補足(ḥashw-i
muṭlaq)」である。もう1つは、総額がそのなかに含まれている「総額の補足(ḥashw-i bāriz)」である11。
[総額の]補足のなかに含まれている総額から何かが差し引かれる場合は、それは「差し引かれたもの(mawḍū‘)」と呼ばれ、「うち(min-hā)」または「のち(ba‘da)」という語で記される。「差し引かれたもの」が「うち」の語によって記されていたら、「そのあとに残った(baqiya
ba‘da-hu)」の語がという記号で[書かれ]、「のち」の語によって記されていたら、「残った(baqiya)」がという記号で、同じように補足のなかに書かれる。*12そして総額の値を、その細目(tafṣīl)とともにしかるべき箇所に書く。最初の箇所では「うち」の語が、次の箇所には「うち」ではなく「のち」[と書かれる]。あとは、いくら収支があろうと、会計冒頭(ṣadr
al-ḥisāb)とすべての項(daf‘āt)で同じ規則を守り、[同じ語が]繰り返されてはならない*。実のところ、簿記術のあらゆる軌道は、これを知ること13の上を回っている。ゆえに、必然的に、このことは他のことよりも注意して守らねばならない。
(A: 20b<23b>)
[用例1:補足と総額の基本の書きかた]
基本額
割当てられた[支出](muṭlaq)14 ───────────────────────────────────────────
カリフ権の都バグダードの諸税 (mutawajjihāt-i amwāl) 15に対して
羊の価格(thaman al-aghnām)の代金として
(Hinz: 29)
1,000頭 1頭につき4 d.n すなわち(ṣāra)
4,000 d.n うち 打刻所(ḍarrābkhāna)の総収入から(min jumla wujūh) 2,000 d.n
[支払われ] 後に残った 2,000 d.n 500 d.n 手数料(al-wujūhāt al-khārijīya) 16から[支払われた]のち(ba‘da)
残った 1,500 d.n
タムガ税(tamghā)17──────
服地屋達(jamā‘at al-bazzāz)の
500 d.n
|
馬市(sūq al-khayl)───────
500 d.n
|
ジズヤ─────────────────
キリスト教徒の
500 d.n
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[用例2:補足の細目を記載する場合の書きかた]
また、補足の額についてなんらかの細目を記したい18ときは必ず、もし[その分量が]わずかなら、そのまま同じく(khud
hamchunān)補足の記載箇所に、補足の額の下か横に細目として記す。以下の[用例の]補足のなかで説明されているようにである。
(A: 21a<24b>)
割当てられた[支出]────────────────────────────────────────────────────
羊の価格の代金として、カリフ権の都バグダードの諸税に対して
1,000頭
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条(ḥarf)──────────────
アミール・アリー名義
500頭
|
条────────────────────
ピール・アリー 名義
500頭
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価格は 19
[1頭]につき 4 d.n すなわち 4,000 d.n うち その他の諸収入[から](sā’ir al-wujūh)
(Hinz: 30)
2,500 d.n
|
条────────────────────
石鹸工場(bayt al-ṣābūn)20
2,000 d.n
あとに残った
|
条────────────────────
手数料
500 d.n
1.500 d.n
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[用例3:補足の細目を総額の細目の箇所に書く場合の書きかた]
補足の細目[の分量]が多い場合は、総額に多くの細目があるか否かを考慮に入れる必要がある。もし総額の細目がわずかなら、補足の細目を、総額の細目を書くべき箇所に書く。そして、総額の細目の箇所に書かれているのは補足の細目であるということがわかるように、頁の中央に、補足の細目の記号(‘alāmat)をの形で書く21。以下のようにである。
(A: 21b<24b>)
割当てられた[支出]──────────────────────────────────────────────────
カリフ権の都バグダードの諸税に対して [以下に]述べられる者達名義で、羊の価格の代金として
1,000頭 [1頭]につき4 d.n すなわち 4,000 d.n うち その他の諸収入[から]
2,500 d.n[支払われ] 後に残った 1,500 d.n22
|
23
条──────────────────────────────────────────────────
玉座のアミール達(umarā’ al-sarīr) 24名義 700頭
アミール───────────────
アリー その公平さ永遠なれ
300頭
|
アミール───────────────
クトルグ・ハージャ
200頭
|
アミール────────────────
アラー・アッディーン
200頭
|
(Hinz: 31)
条──────────────────────────────────────────────────
従士達(nawkarīya) 25と随員達(jamā‘a) 26名義 300頭
従士達────────────────────────
250頭
|
随員達──────────────────────────
50頭
|
アフマド─────────
箙筒士(qūrchī)27
125頭
|
フスラウ─────────
狩猟のアミール
(amīr-i shikār)28
125頭
|
マウラナー─────────
イマード・アッディーン
占星術師
25頭
|
アミール─────────
ムフリス・アッディーン
25頭
|
[用例4:補足・総額のそれぞれに細目を記載する場合の書きかた]
(A:
22a<25a>)総額になんらかの細目がある場合は、必然的に、補足の細目は補足の箇所に書かねばならない。そして総額の箇所には総額の細目を[書く]29。それぞれの用例を示す。
割当てられた[支出]────────────────────────────────────────────────────
カリフ権の都バグダードの諸税に対して 羊の価格の代金として 1,000頭
条─────────────────────────────────────────────30
玉座のアミール達名義 700頭
アミール─────────
アリー
300頭
|
アミール─────────
クトルグ・ハージャ
200頭
|
アミール─────────
アラー・アッディーン
200頭
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(Hinz: 32)
条─────────────────────────────────────────────
従士達と随員達名義 300頭
従士達───────────────
250頭
|
随員達─────────────────
50頭
|
(A: 22<25b>)
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アフマド─────
箙筒士
125頭
|
フスラウ─────
狩猟のアミール
125頭
|
マウラナー─────
イマード・アッディーン
占星術師
25頭
|
アミール─────
ムフリス・アッディーン
25頭
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[1頭]につき4 d.n すなわち 4,000 d.n うち その他の費用[から](sā’ir al-wujūh) 2,500
d.n[支払われて] 後に残った 1,500 d.n
|
タムガ税───────────────
服地屋達の
500 d.n
|
馬市─────────────────
500 d.n
|
ジズヤ────────────────
キリスト教徒の
500 d.n
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[用例5:補足と総額の細目をまとめて記載する場合の書きかた]
補足の細目と総額の細目を一緒にし、それぞれをしかるべき箇所に記載したいときは、このように書かねばならない。
割当てられた[支出]────────────────────────────────────────────────────
カリフ権の都バグダードの諸税に対して、[以下に]述べられる者達名義で、 羊の価格の代金として、 1,000頭 [1頭]につき4
d.n すなわち 4,000 d.n
(Hinz: 33)
条──────────────────────────────────────────────────
玉座のアミール達名義
700頭 2,800 d.n
(A: 23a<26a>)
アミール─────────────
アリー 300頭 1,200 d.n
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アミール─────────────
クトルグ・ハージャ 200頭 800 d.n
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アミール─────────────
アラー・アッディーン 200頭 800 d.n
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条──────────────────────────────────────────────────
従士達と随員達名義
300頭 1,200 d.n
従士達────────────────────────
250頭 1,000 d.n
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随員達────────────────────────
50頭 200 d.n
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アフマド───────── 箙筒士
125頭 500 d.n
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フスラウ─────────
狩猟のアミール
125頭 500 d.n
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マウラナー────────
イマード・アッディーン
占星術師
25頭 100 d.n
|
アミール─────────
ムフリス・アッディーン
25頭 100 d.n
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[用例6:複数の補足を記載しなければならない場合の書きかた]
また、ときとして、補足がいくつもある場合がある。最初の補足の細目を書こうとするときは、「第1に(awwalan)」の記号を頁の中央にのように記す。第2、第3の補足には、「第2に(thāniyan)」「第3に(thālithan)」の記号を、のように記す。第1の細目が(A:
23b<26b>)第2の細目と、また同様に第2の細目が第3の細目と、離れた別個のものになり、それぞれの補足の言葉の間に曖昧さが生じないようにす るためである。
割当てられた[支出]────────────────────────────────────────────────────
シューシュタル 31の冷涼地域(nāḥiya-yi
sardsīr) に対する ハージャ・ハイル・アッディーン・ムンシーの責任による正税(māl) 32から
ジュマーダーII月10日 現行通貨で(al-‘ayn al-rā’ij) 3,000 d.n それに加え 諸地域の 経費(wujūhāt al-mawāḍi‘) 33 500 d.n すなわち 3,500
d.n うち 200 d.n 減免して(takhfīfan)
あとに残った 3,300
d.n 全体に(al-jumla) 34
細目、第1の補足に 35
タムガ税から36───────────
2,000 d.n
|
キリスト教徒から──────────
600 d.n
|
ユダヤ教徒から───────────
700 d.n
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何か他の金額や複数の解説が第1の金額の解説のあとに続くときは必ず、すでに記した第1の内訳項目(qarīna)37のあとにその説明・(A:
24a<27a>)金額の事案(qaḍīya)を記載し、「第2の補足」の記号もしかるべき箇所に記して、その記号のあとに金額を定めねばならない。神が望み給うならば38。
1
Aには章番号はなく、「5」は校訂で補われたものである。Mでは「第6章」(M: 29)。本章のMの該当箇所はM:
29–35。補足と総額についての他の同時代の簿記術指南書の解説箇所は、Murshid: 89a; Sa‘ādat-nāma:
71–77; Qānūn al-Sa‘āda: 6–7; Jāmi‘ al-Ḥisāb: 14–15;
Nafā’is al-Funūn: I, 317–319。
2 ḥashw:“Addition
oder Errechnung von Sachposten”(Hinz, Indices: 18);“Buchung sposten ohne
Errechnung des Endzahlenproduktes;Buchung in der rechten oder
Sachspalte”(Nabipour 1973: 160)。Sukhanは、「余計、不要な部分/(行政用語)伝統的な簿記術において、本質的な会計帳簿上の外の右側に、それに関するなんらかの説明をするために書かれるもの」としている。
3
bāriz:“Zahlenendprodukt, Errechnung von Barposten”(Hinz, Indices:
15);“Buchungsposten mit Errechnung des Endzahlenproduktes; Buchung in der
linken”(Nabipour 1973: 160)。
4
校訂は「なんらかの書かれたもの(mukattabī)」となっているが、MではKMYYTYであり(M: 29)、Sa‘ādat-nāmaの同様の記述の箇所でも「なんらかの解説(ḥikāyatī)や数値(kammiyatī)」となっているので、kammiyatīと読むのが適切であると判断した。
5
この箇所のMの記述は以下の通りである。「補足は、会計官にとってそれを記述することは実際の目的ではないが、それについて何か上奏すべきことがある記録や説明のことである。すなわち、補足は本質的な目的ではないが、とにかく目的となんらかの関わりがある」(M:
29)。
6
校訂ではba-chahār dāng-i waraq
na-bāshadであるが、na-bāshadはAではna-rasadと読め、Mでも同じくna-rasadであるので(M: 29)、後者の意味で解釈した。
7
補足を記載する場所は頁の右から6分の4までであり、かつ行末が頁の右から6分の3から6分の4の位置に収まるように(補足が短い場合は書き出しの箇所も調整しつつ)書くべきことを述べていると思われる。Sa‘ādat-nāmaは、同様の規則を次のように記述している。「頁の右側に書かれるものは何でも補足と呼ばれ、頁の左側に書かれるものは何でも総額と呼ばれる。補足を記す位置は紙の右側から大体6分の4のところである。もし補足の記述がわずかであり、紙の6分の4のところまで行かなければ、確かに紙の中央から少し過ぎたところまで書かれるように書き始めなければならない。そして右側にもし大きな余白が残っても、違いはないだろう」(Sa‘ādat-nāma:
71)。
8
この1語は(A: 19b<22b>)では赤インクで書かれている。Mも同様である(M: 29)。
9 この1文は(A:
19b<22b>)では赤インクで書かれている。Mではその区別はない(M: 29–30)。
10
校訂およびAでは「含まれている(bāshad)」であるが、Mでは「含まれていない(na-bāshad)」であり(M: 30)、文脈から後者を採用した。
11 Sa‘ādat-nāmaは、「絶対的な補足」と「総額の補足」の相違を、「某郡の某年におけるコプチュル税(qupchūr)」に関する記載を事例に説明している。すなわち、「50人、1人につき11
d.n、すなわち現行通貨で550 d.n、命令により200 d.nが寛大にも減額されたのち、残った、350
d.n」とあり、「50人」の下に「絶対的な補足」、「550 d.n」の下に「総額の補足」、最後の「350
d.n」の下に「総額」と註記している。これは、コプチュル税額の算出方法を説明する「50人〜すなわち」が「絶対的な補足」、規定の税額から減免措置により実際の税額が決定される経緯を説明する「550
d.n〜残った」が「総額の補足」、最終的な税額「350 d.n」が「総額」ということを意味していよう(Sa‘ādat-nāma:
73)。コプチュル税については、本訳註39頁、註72を参照のこと。
12 *〜*は、Mでは欠落。
13
校訂では「これを持つこと(dāshtan-i īn bāb)」となっているが、Mでは「知ること(dānistan)」であり(M:
30)、Aの該当の語もそのように読める。
14
muṭlaq:原義は「絶対的な、無制限の」であるが、ここでは「iṭlāqされたもの」の意味であると思われる。州の支出は通常経費(muqarrarīya)と特別経費(iṭlāqīya)の2部門に大別されるが、Falakīyaによれば、通常経費は給付金(idrār)、サイイドの館の諸費と必需品、使者の経費、官吏達の年俸、駅逓、工事費に用いられるのに対し、特別経費は君主・ハレム・王子達の宮廷費(garakyarāq)、イクター、官吏の年俸、預託金(taḥwīlāt)、工房(buyūt)、下賜(in‘āmāt)、貧者・敬虔な人々への義援(ta‘ahhudāt)、下僕の被服費であり、予め定められている経費もあれば、臨時に生じた経費もあるとする(Hinz:
149,
163–166)。通常経費が現地諸経費を中心とする各州の予算に定められた歳出であるのに対し、特別経費は各州へ割当てられる中央の経費であり、しばしば必要に応じて臨時に課されていたと考えられる。ナビープールはiṭlāq
kardanを「(ある額を)分配・定める、認可する(einen Betrag) auswerfen;bewilligen」(Nabipour 1973:
155)としている。Sa‘ādat-nāmaには「偉大なるサーヒブ、財庫官(khāzin)ジャマール・アッディーンに対し割当てられた諸費用(al-ikhrājāt
al-muṭlaq)」の帳簿用例が存在する(Sa‘ādat-nāma: 69)。
15
mutawajjihāt:“Barsteuern, Bareingänge”(Hinz, Indices:
20);“Barsteuereingänge”(Nabipour 1973: 167); 「税、付加税」(本田 1991:
656)。本田は「mutawajjihātはアラビア語mutawajjih《傾向がある、向かう、出発する》の複数形であり、同じく《税》一般を指すのに用いられる。[中略]その意味内容のニュアンスはコンテクストによって知る外ないが、強いていえば…税額、税目に関連して用いられるようである。さらにmutawajjihātは《元額に付加して課せられる税》即ち《付加税》の意味にも用いられる」とする(本田
1991: 267)。ここでは一般的に税を意味する語として解釈し、「諸税」としておく。Mでは「諸税(amwāl)」の語がない(M: 30)。
16
khārijīya:“Zusatzsteuern verschiedener Art, Gebühren, Sporteln usw”(Hinz,
Indices: 18); “Sporteln”(Nabipour 1973: 161); 「手数料」(本田 1991: 328)。
17
tamghā(tamγa):モンゴル支配とともにイラン高原に導入された商税(本田 1991:
323–332)。タムガは家畜に捺す焼印、印を意味し、課税のため検査した商品に検査済みの印を捺したことからこの名がついたと考えられる(本田 1991: 323,
330)。
18 校訂ではtafṣīl
dihadだが、AおよびMではtafṣīlī dihadとなっている(M: 31)。
19
校訂では「それは(huwa)」となっているが、Aの該当の語はS‘Rと読め、Mではal-S‘Rである(M: 31)。si‘r(pl.
as‘ār)はnarkhと同義であり(Sukhan)、「その価格(si‘r)は」と書かれていると判断した。
20
前述の用例1に従えば「打刻所」となるべきである。Mでは「石鹸工場」「手数料」の項目は欠落している(M: 31)。
21 Sa‘ādat-nāmaも同様の規則を述べているが(Sa‘ādat-nāma:
72)、補足の細目の記号は「その細目、補足について(tafṣīl-hu
ḥashwan)」と書くとされており、Falakīyaのように略号化されていない(Hinz 1950: 9–10)。
22
Mでは上に赤字でbārizと書かれている(M: 32)。
23
Aでは「条」の長く伸ばされたマッドの上にという記号が描かれているが、解説のなかで示された記号とは逆向きである。校訂ではこの記号は省かれている。Mの該当箇所では補足の細目の記号が正しい形で示されている(M:
32)。
24
校訂では「月のアミール達(al-umarā’
al-shahr)」であるが、shahrにあたる語はAおよびMでSRYRと読める。続く用例4および用例5でもSHRと読むことは難しく、またFalakīyaは他の箇所で「玉座の医師達(iṭibbā’-i
sarīr)」という表現も用いている(Hinz: 164)。これらのことから、「玉座の」と読むべきであると判断した。
25 nawkar(nökär):
原義は「友」「仲間」であり、指導層をなす氏族・部族の首長に戦士の身分で自由に仕えた者を指すという説と、より不自由な、家産的支配隷属的な関係を主人と取り結んでいた者という説とがある(護1952;村上
1970-76: II, 148;TMEN: I,
521)。ペルシア語史料においても様々な意味で登場するが、ここでは箙筒士(qūrchī)などを含む武官的性格を持つ宮廷の随身を指していると思われる。小野
1988に倣い「従士」と訳す。
26
ここでのjamā‘aの用法は明らかではない。別の箇所には「スルターンの宮廷のjamā‘aの給与(marsūmāt al-jamā‘a fī urdūy
al-sulṭānī)」という表現があるが(Hinz:
103)、同じような意味で用いられていると思われる。とりあえず「随員達」と意訳する。ここでは、「従士達」に対し、占星術師など武官以外の宮廷随行員を特に指す言葉として用いられているようである。
27
qūrchī(qorči):「弓矢を持つ者」(TMEN: I, 429–432;羽田 1984)。チンギス・ハン時代以来、近衛兵の意で用いられた。本田
1991: 278に倣い「箙筒士」と訳す。
28 amīr-i
shikār:狩猟用の獣(猛禽、猟犬など)を管理する役職。ペルシア語史料ではセルジューク朝期から登場し始め、カージャール朝期まで用いられたという。Dastūr
al-Kātibには文書でamīr-i shikārに対して用いられる呼びかけ・称号の用例がある(Anwarī 1373kh: 20–21;Dastūr
al-Kātib: II, 90–91)。
29
「総額に細目があり、補足にも細目がある場合は、必然的に、総額の細目は総額の箇所に書き、補足の細目は補足の箇所に書かねばならない」(M: 32)。
30
校訂は以下の2つの「条」を用例3と同じく頁中央に配置する書式を採用しているが、写本ではA、Mともこれらの2つの「条」は頁の右に位置する(M:
32–33)。これら2つの「条」は補足の細目であり、補足は頁の右6分の4の幅に収めねばならないという規則を踏まえれば、写本の書式を再現するのが正しい。
31
Shūshtar:イラン南西部フーズィスターン地方Khūzistānの中心都市。Tustarとも呼ばれる(Nuzhat al-Qulūb:
109; Krawulsky 1978: 356)。
32 māl:地租(Lambton
1988: 189, 358);(農民に課される)地租・(商人に課される)タムガ税・(遊牧民に課される)家畜税からなる正税(本田 1991: 207–209,
283–287);都市部・郡部双方にかかる地方税(Remler 1985:
171)など様々な定義がなされているが、地租(kharāj)を主としつつ、家畜、ギルド、商取引などへの課税も含み、地域毎にその内容が異なりうる税だったと思われる。Sa‘ādat-nāmaは、多様な内訳を持つマール税(mālīya)の事例を示している(Sa‘ādat-nāma:
76, 131–132)。13世紀末成立の簿記術指南書Murshidは、「以前はハラージュ、‘ibra、ṣadaqātなど多くの名があり、それぞれがある場で用いられていた…[中略]…今ではすべてにマールの語が用いられている」と述べており(Murshid:
86a)、mālが13世紀末までに様々な税目を総称する語として用いられていたことがわかる。
33
Mでは、「打刻所の諸経費(wujūhāt al-ḍarrābkhāna)」(M: 34)。
34
Aでは「第1の補足の内訳」のやや右上に斜めに黒字で書き込まれているが、何を意味するのか不明。Mではこの語は欠落している(M: 34)。
35
この補足の細目の記号に続く記述は、明らかに総額3,300 d.nの細目であり、解説内容と矛盾する。Mでは、補足の記述のなかの金額「3,000
d.n」に赤で「補足1(ḥashw 1)」という註記があり(M:
34)、この金額の内訳が「第1の補足の細目」として記される予定であったと考えられる。おそらく、原本ではこの記号のあとに補足のなかに登場する3つの金額「3,000
d.n」「500 d.n」「200
d.n」の内訳が「第1」「第2」「第3」の補足の細目として書かれていたが、その記述がAおよびMより古い段階の写本で欠落し、このような書式になったと考えられる。
36
「から(min)」はMには存在しない(M: 34)。
37
校訂では「段階(martaba)」となっているが、写本では「対(qarīna)」と読むことができる。ここでのqarīnaは、ここで例として説明されている複数ある解説のうちの1つという意味で、「内訳項目」と解釈した。qarīnaの意味は、第6章の註5を参照。
38この最後の用例以下の末尾の数行はMでは欠落し、異なる記述となっている。「会計官(muḥāsib)は補足と総額によく慣れなければならない。そして「うち(min-hā)」の語で記述がなされたときはいつでも、説明を金額より前にし、「のち(ba‘da)」の語で記されたときは、金額を説明より前にしなければならない」(M:
35)。
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