文部科学省委託事業「特色ある共同研究拠点の整備の推進事業」イスラーム地域研究東洋文庫拠点 (TBIAS)

トップページ
関連リンク
公募研究
研究会・報告
海外調査・報告
拠点強化事業「日本における中東・イスラーム研究文献DB」
映像資料館
地図




リンクフリーです。
このバナーをお使いください。
HOME > 公募研究

公募研究


(Hinz:35; A:24a<26a>)

第6章1

諸規則

――そして本章中に数節――

 

[1]節2  「内訳(min-hā)」及び「内々訳(min-dhālika)」



[用例1:「内訳」「内々訳」方式の概要]
 「内訳(min-hā)」とは、親項目(ummahāt)3のあとに書かれ、その親項目の一部となっているマッド(madd)である。そうしたものを「大内訳(min-hā-yi buzurg)」と呼ぶ。そして、その[親項目の]マッドより若干4、左右両側から短いマッドで[書かれる]。どんな会計でも、その「内訳」(大内訳)があれば、それにはその「対(qarīna)」5となる同格のものが1つ来る。それ以上はいけない。そこ(大内訳)から分岐するものは何でも「大内々訳(min dhālika-yi buzurg)」と呼ぶ。そしてそのマッドもまた「大内訳」のマッドよりも短い。どんな会計でも、「内々訳」は2つ以上あってはならない。

 「対」[を書くこと]の狙いは、以下の通りである。「内訳」や「内々訳」が、定められた全体から分岐したとき、全体は、一対の「内訳」とそれに付随する一対の「上位の内々訳(min dhālika-yi a‘lā)(大内々訳)」のなかにおさまる。それらはいずれも本項目(aṣl)(A: 24b<27b>)と対項目から成り立つ。なお、「上位の内々訳」には、細目を2つ書くことが許され、「大内訳」の対にも細目を2つ書くことができる。もし細目が非常に多岐にわたったら、「内訳」項目群から「内々訳」項目が分岐し、また「内々訳」項目から「内訳」項目[が分岐する]。細目がすべて尽きるまで。

 上位にあるマッドは、必ずあとのマッドより両側ともに長くなる。もし「内訳」または「内々訳」項目の1つが紙の一方の欄に納まっている場合は、それを内訳または内々訳の細目と呼ぶ。以下の通り。 

記述──────────────────────────────────────────────────────────────
ハージャ・イマード・アッディーンの会計について執行されたこと
(Hinz: 36)
年俸((marsūmāt)6、給付金(idrārāt)7、俸給(mawājib)8、手当(waẓā’if)9、工事費(‘imārāt)からなる、イスファハーンの通常経費について
760年サファル月10日において
     現行通貨で(al-‘ayn al-rā’ij)                     4,420 d.n

大内訳
年俸──────────────────────────────────────────────────────────10
と給付金と俸給                              3,600 d.n

大内々訳
年俸と給付金────────────────────────────────────────────
                              3,000 d.n

大内々訳の細目
年俸──────────────────────────────────────────
                         2,000 d.n

大内々訳の細目
給付金────────────────────────────────────────
                         1,000 d.n

大内々訳の対
俸給──────────────────────────────────────────────────
                              600 d.n

大内訳の対
手当と工事費────────────────────────────────────────────────────
                                    640 d.n
     大内々訳の対の細目
手当 ──────────────────────────
                240 d.n
     大内々訳の対の細目
工事費 ─────────────────────────
                400 d.n


(Hinz: 37; A: 25b<28b>)
[用例2:「内訳」方式の特徴について ]
  そして、「内訳」「内々訳」[を書くこと]の理由とこれらの諸節の相互の連関が持つ効用は以下の通りである。もし、ある者が詐欺をしようとしたら、何箇所も削除や改竄が生じるので詐欺は露見する。これは削除や修正がほとんど生じない「梯子段方式(nardbān-pāya)」11と異なるところである。

 また、「内訳」のなかに「現金で(bi-‘ayn-hā)」と「現物支給額(thaman al-ajnās)」が書かれる場合がある。すなわち、「大内訳」の場所に「現金で」を記し、そのあとで「現物支給額」を記し、そうして12、その品がもともといくらであるのかを明らかにする(tā aṣl-i qaḍīya rā tankhwāh-i wajh gardad)。そして、もちろん現物支給額の箇所には細目が記される。以下の通り。
 
俸給──────────────────────────────────────────────────────────────
長者(mihtar)フスラウ蝋燭係名義に 
841年ジュマーダーII月10日 
(A: 26a<29a>)

最終的な合計の細目(tafṣīl-i jumla-yi ākhir)13
    「現金で」────────────────────────────────────────────────
     打刻所役のアブドゥッラーの引き渡しから
                                      500 d.n

細目の対(qarīna-yi tafṣīl)
「現物支給額」により─────────────────────────────────────────14
                                  100 d.n


          細目の対
小麦(ḥinta)──────────────────────
15ジャリーブ15について
ジャリーブにつき 3 d.n     45 d.n
         細目の対
綿(quṭn)────────────────────────
22マン16について
マンにつき 2+1/2 d.n      55 d.n

合計─────────────────────────────────────────────
現金・現物からなる                    600 d.n



 「現金で」[という術語]は、異なった種類の貨幣からなることがある。あるものは、貨幣換算の基準として定められた貨幣である。これには説明の必要がない。他方は、他の貨幣との両替(muṣārafa)から[価値が]得られる貨幣である。その他の貨幣に換算しない第1の「現金で」を、この集団(簿記術に精通した人々)の術語では、「絶対の現金で(bi-‘ayn-hā-yi muṭlaq)」と呼ぶ。他の貨幣に換算される「現金で」を(A: 26b<29b>)、「条件付き現金で(bi-‘ayn-hā-yi muqayyad)」と呼ぶ。「条件付き[現金で]」の例[は以下の通り]。

現金で────────────────────────────────────────────────────────────
                                        200 d.n

物品で─────────────────────────
100 d.n
葡萄───────────  干し葡萄─────────
20ウィクル17      10ウィクル
1ウィクル        1ウィクル 
3 d.n   60 d.n    4 d.n    40 d.n
換算───────────────────────────

25ミスカール18   ミスカールにつき 4 d.n
すなわち             100 d.n
 


 「内訳」と「内々訳」とそれから分岐するものには、帳簿においてすべての中心となる非常に重要ないくつかの原則が記されている。本当に、帳簿に関連する諸規則はすべからくこの節に関連する。 


1 Aには章番号はなく、「6」は校訂で補われたものである。Mでは「第7章」(M: 35)。本章のMの該当箇所はM: 35–52。 
2 校訂およびAには節番号はないが、Mでは「第1節(bāb-i awwal)」となっている。本節のMの該当箇所はM: 35–38。同時代の他の簿記術指南書の「内訳」・「内々訳」に関する解説は、Murshid: 101a–106a; Sa‘ādat-nāma: 63–64; Qānūn al-Sa‘āda: 5; Jāmi‘ al-Ḥisāb: 7–8; Nafā’is al-Funūn: I, 314–315。  
3 Sa‘ādat-nāmaでは、「親項目(ummahāt)」とは「会計冒頭」(本訳註第4章参照)と対になる言葉で、たとえば「そこから〜になる(ṣāra min dhālika)」、「それは〜と確定される(istiqrār dhālika)」、「確定(qarār)」「それに加えられた(uḍīfa ilā dhālika)」「2つの合計(jumlatān)」「その2つの合計(jumlatā-hu)」「すなわちその合計は(fa dhālika al-majmū‘)」「そこから引かれる(wuḍi‘a min dhālika)」「残余(bāqī)」「超過(ziyāda)」などであり、いずれも、「会計冒頭」と同じ長さのマッドであるという(Sa‘ādat-nāma: 62–63)。   
4 Mでは「点ほど(miqdār-i nuqṭa)」(M: 35)。 
5 校訂ではmartabaであるが、AおよびMでqarīnaと記されているので(M: 35)、こちらを採用した。qarīna:“Sparte; Parallelfall”(Nabipour 1973: 116)。簿記術指南書において、qarīnaは帳簿の書式上、対または同格になる項目を意味する語として用いられる。Sa‘ādat-nāmaによれば、たとえば「某に任された総[税]収(al-majmū‘ ‘alā fulān)」という会計冒頭のqarīnaとなるのは「それから差し引かれた(wuḍi‘a min dhālika)」「残余(bāqī)」「超過(ziyāda)」などの項目であり、これらは会計冒頭と同じ長さのマッドで記載されることで、対の関係であることが示される(Sa‘ādat-nāma: 62–63)。本訳註では「対」と訳すが、帳簿用例のなかで「Aの対」と呼ばれる項目は、各項目が内訳に分岐し階層的な構造を持つ帳簿の書式において、先行して登場している「A」の項目と同格に対応し合う項目であることを意味している。本節のFalakīyaの記述に従えば、原則では「大内訳」と「大内々訳」の「対(qarīna)」は本項目に対して1つのはずだが、次章(第7章)においては、それに相当する項目が2つ以上存在している例が見られる。   
6 marsūm:“Gehalt”(Hinz, Indices: 19; Nabipour 1973: 168)、すなわち「給与・俸給」。marsūmはmawājibとともに給与を意味するが、Dastūr al-Kātibによれば、marsūmはなんらかの職務を管轄する身分の者(mubāshir)に年単位で与えられる年俸である(Dastūr al-Kātib: III, 272)。一方、mawājibはしばしば数ヶ月単位で支給され、兵士やチータ飼い、犬飼いなど相対的に下位の職種の者に支払われる給与の意味で用いられていたと思われる(Sa‘ādat-nāma: 130–131; Hinz: 70–71)。 
7 idrār:“Renten, Stipendien”(Hinz, Indices: 16);“Renten; Pension”(Nabipour 1973: 154);「年金、俸禄」(本田1991: 271, 311)。Falakīyaは、通常経費の1項目としてidrārを挙げ、「それはカーディー、シャイフ、学生達、および彼らに類する人々のためのものであり、サイイド達や玉座の、すなわち玉座のもとに仕えている医師達のためにも記録される」と説明している(Hinz: 163)。13–14世紀イラン高原におけるidrārについては、岩武 1998を参照。   
8 mawājib:“Besoldung”(Hinz, Indices: 20; Nabipour 1973: 170; Anwarī 1373kh: 111)。  
9 waẓā’if:“staatliche Leistungen an geistliche Einrichtungen und Personen”(Hinz, Indices: 24);“Gebührnisse”(Nabipour 1973: 171)。  
10 この項目のマッドは、校訂と写本A、Mいずれも親項目の「記述」と同じ長さに見える。しかし本節の記述に従えば、「大内訳」にあたるこの項目のマッドは、親項目のマッドより短くなければならない。 
11 本章第4節参照。
12 校訂ではyā aṣl-i qaḍīyaと記されるが、AとMではtā aṣl-i qaḍīyaとなっている(M: 37)。
13 上記の説明に基づけば、これは大内訳になるべきである。書き間違いの可能性もあるが、別の仮説として、より大きな帳簿から抜き出したために、その帳簿上における内訳・内々訳の階層を反映している可能性がある。なお、本事例の註記はMには見られない。
14 このマッドは校訂では「現金で」のマッドより短くなっている。Aでも当該のマッドはやや短く見えるが、「現金で」「現物支給額により」の項目は対であり、同じ長さであるべきであろう。Mではこの2項目は同じ長さで書かれている(M: 37)。
15 jarīb:イランにおいて1ジャリーブは、10カフィーズ(qafīz)であるが、カフィーズの単位は地域によって異なる。14世紀イランでは1ジャリーブは120タブリーズ・マンに相当する。イル・ハン朝第7代君主ガザンGhāzān(在位 1295–1304)の度量衡統一政策の結果、ジャリーブは、小麦で約100キログラム・130リットルである(Marcinkowski 2003: 56–57)。
16 man:マンはもともと古代の度量衡単位ミナ(mina)に由来する(Marcinkowski 2003: 22)。イランでは古くは、マンは3種類存在したが、14世紀のガザンの度量衡統一により6分の5キログラム、すなわち約833グラムで、260ディルハム相当である「法定基準のマン(man-i shar‘ī)」が標準とされた。ただし14世紀半ば以降には、「法定基準のマン」よりも量の多いマン(約3キログラム)が次第に頻繁に用いられるようになった(Marcinkowski 2003: 24–26)。 
17 wiqr:ウィクルは、「荷運び動物の積載量」を意味し、ハルワール(kharwār)と同義である(Marcinkowski 2003: 52)。14世紀のガザンの度量衡改革では、1ハルワールは100マン、すなわち83.3キログラム相当と定められた。14世紀中葉以後、マンが一般的に約3キロになったため、ハルワールの重量も約288キログラムとなった(Marcinkowski 2003: 20–21)。
18 mithqāl:ミスカールは、ディルハムと並んで、イスラームにおける度量衡の基礎をなすものである。ミスカールはもともとローマのソリドゥス金貨に遡るものとされ、1ディーナール金貨の重さの基本となっている。なおミスカールと重量ディルハムの法定基準重量の比率は10対7である(ただし実際は、3対2として計算されることが多かったという)。他の重量単位はすべてこの2つをもとにしている。11世紀のアンダルス出身のムスリム学者イブン・ムアーズは、イラク地方(イラク・アラブ)の金貨重量としてのミスカールの重量を示しており、それによれば、4.233グラムである。この重量はイランでも適用されたという。14世紀初頭のイランのミスカール重量は、4.3グラムであったという。なお16世紀以降は、1ミスカールは約4.6グラムと換算され、この重量換算は今日でも利用されている(Marcinkowski 2003: 1–9)。    
目次に戻る
トップページ | 関連リンク | 公募研究 | 研究会・報告 | 海外調査・報告 | 拠点強化事業 |映像資料館 | 地図
Copyright © 2009 Documentation Center for Islamic Area Studies, The Toyo Bunko (Oriental Library). All Rights Reserved.
財団法人東洋文庫