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(Hinz: 39; A: 26b<29b>)
第6章
諸規則
――そして本章中に数節――
[2]節
19 「追加(iḍāfa)」
会計において、ある額が記載されていて別の金額がそれに付け加えられた際は必ず、ディーワーンの人々の術語で、それを「追加(iḍāfa)」または「累加(ilḥāq)」(A:
27a<30a>)と呼ぶ。その[追加がなされる]額が、その会計の「補足(ḥashw)」に記載されるのか、「総額(bāriz)」のなかに記載されているのかということを考慮する必要がある。従って、すでに記したように 20、その額は2つの種類に分類されている。
[用例3:「総額」に書かれる「追加」]
第1種:「総額」に書かれるものであり、その額(総額)が記載されたマッドと同じ長さで、「それに追加された(uḍīfa ilā
dhālika)」と書かれる。その下に、追加された金額(wujūh)について細目を記す。細目を書き終えたら、「2つの合計(jumlatān)」を、「それに追加された」のマッドと同じ長さで書く。記載されている額と追加された額の合算(sarbālā)を、「2つの合計」の下に書く。以下の通りに。
基本額(aṣl) 21────────────────────────────────────────────────────────
フワイザ 22の諸税の(mutawajjihāt)
偉大なる閣下 ハージャ・ナジーブ・アッディーン・アルバルヒーの責任(‘uhda)において
満1年分(wājib al-sana al-kāmila)
842年ラビーI月朔日 (A: 27b<30b>) 現行通貨で 300,000 d.n
そこから差し引かれた──────────────────────────────────────────────────
通常経費(muqarrarīya)と特別経費(iṭlāqīya)として 280,000 d.n
(Hinz: 40)
内々訳(min dhālika)
通常経費─────────────────────────────────────────────
その州(wilāya)における 140,000
d.n
給付金(idrārāt)───────
学生(ṭalaba)のために
60,000 d.n
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年俸(marsūmāt)────────
下僕(khadam)のために
20,000 d.n
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生活費(ma‘āsh)23─────────
一部の古参の奉公人(khidmatkārān-i ‘atīq)24のために
20,000 d.n
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経費(ikhrājāt al-ṣādir wal-wārid)
使者のための25
20,000 d.n
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扶持(iḥtisābiyāt)26 ───────
20,000 d.n
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通常経費の対
特別経費─────────────────────────────────────────────
140,000 d.n
宮廷費(maṣāliḥ-i garakyarāq)27 ─────────
80,000 d.n
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預託金(taḥwīl)28────────────────────
財庫の代官達(nuwwāb al-khizāna)への
60,000 d.n
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(A: 28a<31a>) 内々訳の対
残余(bāqī)───────────────────────────────────────────────────────
この会計処理により 20,000 d.n
追加
それに追加された(wa uḍīfa ilā dhālika)──────────────────────────────────────
王領地の収穫物(irtifā‘āt al-khāṣṣa) の代金から 30,000 d.n
干葡萄の価格として ──────────────────
200ウィクル ウィクルあたり 100 d.n
20,000 d.n
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アーモンド29の価格として ───────────────
50ウィクル
ウィクルあたり 200 d.n
10,000 d.n
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残余30と追加の合計
2つの合計 ──────────────────────────────────────────────────────────
前述の者(ハージャ・ナジーブ)のもとに 残額と追加額からなる 50,000
d.n
この[追加の]手続きが繰り返される場合、2度目には、「そしてそれに累加された(wa ulḥiqa ilā
dhālika)」と引き伸ばして書き、累加の額をその下に書く。そしてそのあと、「そこでその総計(fa dhālika al-majmū‘)」31と伸ばして書く。さらに、2つを合計したものをその下に記録する。その額に対してこれ以上の追加はできない。この手続きを会計の[残余の]箇所に書く。他の場所に書いてはならない。
(A: 28b<31b>)
そしてそれに累加された───────────────────────────────────────────────
国庫(bayt al-māl)の税から 書記のイマード・アッディーンの集計によって 30,000 d.n.
残余と追加と累加の合計
そこでその総計──────────────────────────────────────────────────────
80,000 d.n
(Hinz: 42)
[用例4:「補足」に書かれる「追加」]
第2種:もしこうした「追加」が、「補足」が記載されている額に対して発生する場合は、同様に「補足」において、その額を追加する。「そしてそれに対する累加」または「それ、それらに対する付加」という形式で、引き伸ばさずに[記す]。そして、元の額と追加額から得られる追加の額の次に、「すなわち(yakūn)」と書き、金額を確定する。もし別の追加がまた「補足」のなかに生じるとしたら、「すなわち」と額の確定のあとに、その追加を「それに対して(ilay-hā)」という語によって合計しなければならない。そして最終的に「そしてすべて(fa
kull)」32という語で、総計がいくらになっているのか検分し、「総額」の箇所に書かなければならない。
(A: 29a<32a>)
基本額────────────────────────────────────────────────────────────
フワイザの諸税 ハージャ・ナジーブ・アッディーン・バルヒー の責任において
満1年分として 842年ラビーI月朔日
300,000 d.nとそれに対する追加 王領地の収穫物の代金から 30,000 すなわち 330,000 d.n
それに対して、国庫の税から 33。書記イマード・アッディーンの筆により
30,000 d.n そしてすべて 360,000 d.n
総額と補足に対する追加と累加の回数の制限については、どんな[会計学の]先生も決めていない。しかし、あまり繰り返さない方が望ましい。会計学では、術語を繰り返さないことを良しとする。
19
校訂およびAには節番号はないが、Mでは「第2節(bāb-i duwwum)」。本節のMの該当箇所はM:
39–42。同時代の他の簿記術指南書の追加に関する解説は、Murshid: 88b; Sa‘ādat-nāma:
81–82; Qānūn al-Sa‘āda: 7; Jāmi‘ al-Ḥisāb: 13–14; Nafā’is
al-Funūn: I, 320–321。
20
「補足」と「総額」については第5章で解説されている。
21
このaṣlという会計冒頭は、第6章[2]節および[3]節で挙げられる用例のみに登場する(Hinz: 39, 42,
43–51)。以下に続く用例は、財務文書・帳簿の種類としては、本訳註第7章の精算書(Hinz: 67–80)、または州の個別帳簿(Hinz:
128–153)に相当する書式であるが、それらの用例ではこの会計冒頭は用いられていない。またSa‘ādat-nāmaの会計冒頭と親項目に関する章のなかの用例にも登場しない(Sa‘ādat-nāma:
62–63)。帳簿の諸項目の対象関係を示す註記で「aṣlの対(qarīna-yi aṣl)」という言葉が繰り返されていることから(Hinz: 49,
50)、帳簿書式の構成をわかりやすく示すために、便宜的につけられた会計冒頭であると考えられる。とりあえず、ここでは本来の税収額という意味で「基本額」と訳する。校訂では、この会計冒頭のマッドは、次の「そこから差し引かれた」より短くなっているが、対をなす項目として同じ長さのマッドで書かれるべきである。Aではこの2項目は2頁にわたっているため、マッドの長さの違いがはっきりしないが、Mではマッドの長さは同じである(M:
39)。
22
Ḥuwayza:イラン南西部のフーズィスターン地方の都市(Nuzhat al-Qulūb: 110–111; Krawulsky 1978: 352)。
23
ma‘āsh:“Unterhaltsmittel”(Hinz, Indices:
19)、すなわち「生計の資金」。ここでは生活の資の支給という意味だと思われる。ma‘īshaといった場合、個人に生涯給付される生活費を指すが(Dastūr
al-Kātib: III, 269)、それと同義であるかは不明。
24
‘atīqは「古い」という意味だけではなく、「奴隷身分から解放(‘itq)されている」の意味もあり、この語は「解放された僕」とも訳しうる。しかし、他の箇所に「新旧の僕達のために(bi-rasm
al-khadam ‘atīqan aw jadīdan)」という表現が登場するため(Hinz: 166)、ここでは「古参の」と解釈する。
25
ikhrājāt al-ṣādir wal-wārid:「往復する者のための経費」。第8章における総合帳簿(jāmi‘
al-ḥisāb)の用例のなかで、著者は「それは、サイイド達、ウラマー、使者達(īlchīyān)、その他の人々が、州の重要事のために君主達の門へやって来ることである」と説明している(Hinz:
164)。本田は「使者の経費(ikhrājāt-i īlchīyān)」と同じく使者とその随員に要する出費だとしている(本田 1991: 297)。
26
iḥtisābīya:“Apanagen”(Hinz, Indices: 16; Nabipour 1973: 154);「采邑」(本田 1991:
311)。本田が着目しているJāmi‘ al-Tawārīkhの記述を参照したところ、iḥtisābīyaは、イクター、年俸、減免(musāmaḥāt)、下賜(in‘āmāt)、給付金、喜捨(ṣadaqāt)、ワクフ(awqāf)などと並んで、土地から得られる税収を分配する形態の1つであったと考えられる(Jāmi‘
al-Tawārīkh: II, 1440)。Dastūr al-Kātibでは、ディーワーンが管轄する個人の経済的権利に関わる諸要件として、給付金、減税(takhfīf)、放棄(isqāṭ)、返還(mardūd)、私有地(amlāk)、年俸、生活費(ma‘īshat)、恩賜(suyūrghāl)とともにiḥtisābīが挙げられている(Dastūr
al-Kātib: III, 125)。Sa‘ādat-nāmaにおいても、王族の食費(āsh,
īdāchīya)と並んで特定の妃(khātūn)や王子(shāhzāda)に特定の村落からの収入が王命によりiḥtisābīyaとして定められている例や(Sa‘ādat-nāma:
145, 150)、ある郡の収入が約20名の人物に対しiḥtisābīyaとして授与されている例がある(Sa‘ādat-nāma:
79–80)。一方、iḥtisābīyātは、徴税吏が担当している徴税額や徴税地の一部を、すでに納入済である、減免措置が取られているなどの理由に基づき、会計の際に請負負担額から差し引いて計算するように命じる証書の意味で用いられることもある(Murshid:
86b, 98a–b; Jāmi‘ al-Tawārīkh: II, 1433)。
27 garakyarāq(keräkyarāq):“Hofhaltungsbedarf
ausser Nahrungsmitteln”(Hinz, Indices: 17);“Hofhaltungsbedarf (ausser
Lebensmitteln)”(Nabipour 1973: 167);“Hofbedarf”(TMEN: III, 593–595, Nr.
1631)、すなわち「(食糧、生活物資に関する)宮廷の必要物、宮廷の需要」。
28
taḥwīl:“Ressortbestand, Fonds”(Hinz, Indices: 23);“Ressortfonds”(Nabipour 1973:
158)、すなわち「部局の現在高、資金」。taḥwīlまたはtaḥwīlātは、財庫管理官、工房責任者、建設事業担当者などへ職務遂行のために委託される費用として登場する。具体例は第8章における預託金帳簿(daftar-i
taḥwīlāt)の用例を参照(Hinz: 122–127)。
29
校訂では読みが確定していないが、Aではlawz(アーモンド)である。
30
校訂では「第2(thānī)」と読むが、本文の説明でもあるように、この場合「残余の(bāqī)」である。
31
校訂では、「そしてその(wa dhālika)」と読んでいるが、「そこでその(fa dhālika)」と読むべきである。
32 校訂では、wa
kullと読むが、Aによればfa kull。
33
Aでは、wa ilay-hāのあとにminが記されている。
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