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(Hinz:51; A:33b<36b>)

第6章

諸規則

――そして本章中に数節――

 

[4]節 63:「梯子段方式(nardbān-pāya)」


 当世のある人々は、最終的に書こうとしていることで足るとして、繰り返しを除こうと考え、「内訳」と「内々訳」を用いた帳簿形式を変えた。そして要点のみを記し、繰り返しを省くために、「梯子段方式(nardbān-pāya)」を作り出した。これ以前の規則は計算書を細かく分岐させながら(shu‘ba-āmīz)記述するというものであった。以下書かれるように。 

[用例1:内訳・内々訳方式の例]
支出──────────────────────────────────────────────────────────────
年俸、給付金、俸給、手当、工事費からなる 
    現行通貨で                             20,000 d.n

内訳
年俸───────────────────────────────────────────────────────
給付金、俸給、手当                        15,000 d.n

 (Hinz: 52)
内々訳
年俸───────────────────────────────────────────────
給付金、俸給                       10,000 d.n

内々々訳(min-hā-yi thānī)
年俸─────────────────────────────────────
                      5,000 d.n
内々々々訳(min dhālika-yi thānī)
概要(mujmal)64 ─────────────────
              2,000 d.n
内々々々訳の対(qarīna-yi min dhālika-yi thānī)
明細(mufaṣṣal)65 ────────────────
              3,000 d.n
        その内訳
ハージャ─────────────────────────
アリー・ジュッバージー66
                 1,500 d.n
        その内訳
ハージャ─────────────────────────
アズィーズ・ジュッバージー
                 1,500 d.n

内々々訳の対
給付金と俸給───────────────────────────
                    5,000 d.n67

        内々々々訳
給付金─────────────────────────
学生のために
                 2,500 d.n
        内々々々訳
俸給───────────────────────────
従僕達のために
                 2,500 d.n

内々訳の対
手当─────────────────────────────────────
受給者のために                10,000 d.n

内訳の対
工事費─────────────────────────────────────────────────────
吉兆なる館(buyūt sa‘īd)のために68                    5,000 d.n



 「内訳」、「内々訳」の利点および、これらのいとおしきものが作られた理由は以下の通り。もしある者が、詐欺をすれば、いくつかの(A: 34b<37b>)場所に削除と訂正が生じるため、この詐欺は速やかに露見する69。これは梯子段方式とは違う。梯子段方式では、削除と訂正はあまりない。今では書記達は、ほとんどの会計帳簿を梯子段方式で記す70。このように。
 
[用例2:梯子段方式の例 ]
通常経費───────────────────────────────────────────────────────────
  平安の館バグダードについて                          20,000 d.n

年俸─────────────────
従僕達のために
         5,000 d.n
給付金───────────────
学生のために
         2,500 d.n
俸給──────────────────
下僕達 のために
          2,500 d.n
手当─────────────────
受給者のために
         5,000 d.n
工事費 ──────────────
高貴なる館のために
         5,500 d.n


        


(Hinz: 54)
 本当に、梯子段方式における優美さ、能弁さ、明白さは、幾層倍も(ba-farāwān martaba)、「内訳」と「内々訳」方式よりも優れている。 
      
書式──────────────────────────────────────────────────────────────
預託金について。現金・現物の両方がある人物に預託された後、現物の一部が換金され、(A: 35a<38a>)その対価(thaman)も彼に引き渡された場合、以下のように記述される。

   
預託金(taḥwīl)──────────────────────────────────────────────────────
サドルであるハージャ・アブー・アルハイル・アルキルマーニーに対して
ナジュマーバード村の収穫物から
シャイフ・アフマド・アッシーラーズィーが請け負っていた 71
満1年分
760年ラマダーン月朔日 
現金と現物からなる 
                            既述の通りに

         元の額
現金───────────────────────────
穀物と果物の対価から
                 1,300 d.n
         元の額
現物───────────────────────────
 
               400 ジャリーブ
       明細(muẓhar)
項────────────────────────────
果物の対価、コプチュル税(qupchūr)72、キリスト教徒の人頭税から
                1,000 d.n
         明細
穀物───────────────────────────
 
               300 ジャリーブ
    明細の確定
  (muthbat-i muẓhar)
 

果物の対価───────
     333+1/3 d.n
    明細の確定

コプチュル税───────
     333+1/3 d.n
    明細の確定

小麦────────────

    200 ジャリーブ
    明細の確定

大麦(sha‘īr)──────

    100ジャリーブ
 
キリスト教徒の人頭税─
     333+1/3 d.n
 

    明細の対
きび(dukhn)─────

    100 ジャリーブ


        明細の対
項────────────────────────────
規定の穀物の対価
その対価の引き渡し
100ジャリーブに関して
[1ジャリーブ]につき 3 d.nで
            すなわち 300 d.n


 
               

以下説明の通り差し引く 73
それから差し引かれた ───────────────────────────────────────────────────
以下説明する支出のために
 
支出(maṣrūf)  
現行通貨 ────────────────────────────────────────────────
                              683+1/3 d.n

羊毛──────────────────────
封印されたキプロス産 
(Qubrusī-yi mukhattam)74
          3反
(Hinz: 56)
75   ファリース染76  赤
1    1      1 
166+2/3 d.n 166+2/3 d.n 166+2/3 d.n

額の総計───────────────────
            500 d.n
下賜(in‘ām)──────────
書記マウラーナー・アリー名義

          50 d.n
諸費────────────
王の衣類のために

     133+1/3 d.n

(A: 36a<39a>)
支出  
穀物 ───────────────────────────────────────────────────
以下詳述の通り                       290 ジャリーブ

現物で──────────────────────────────────────────────────
穀物を                           190 ジャリーブ
引き渡して────────────
パン屋へ77 
       120 ジャリーブ
喜捨────────────────
貧者名義
        20 ジャリーブ
年俸─────────────────
従者名義に
         50 ジャリーブ


支出の対 
売却された ───────────────────────────────────────────────
   その対価は彼(アブー・アルハイル)に引き渡されており、そして、彼の総収入に含まれている
    300 d.nについて   1ジャリーブ78につき 3 d.n すなわち
    ─────────────────            100ジャリーブ

求められる状況(maṭlūb-i ḥāl)  
残余 ──────────────────────────────────────────────────────────────
前述の者(ハージャ・キルマーニー)のもとにある

現金────────────────────────────
現行通貨で 
(Hinz: 57)
               616+2/3 d.n
現物────────────────────────────
              110 ジャリーブ
穀物───────────  きび───────────
             手つかずのまま
     10ジャリーブ     100ジャリーブ

(A: 36b<39b>)
それに対する追加 ─────────────────────────────────────────────────────
ハージャ・ムザッファル・ナタンズィー打刻役(ḍarrāb) の長から
現行アクチェ通貨で(āqcha-yi rā’ij) 79                      4,244 d.n  
合計 ──────────────────────────────────────────────────────────────
前述のアブール・ハイルのもとにある、残高と追加からなる
現金で                                 4,860+2/3 d.n
現物で                             「残余」で記述した通り
              穀物           きび
              10ジャリーブ       100ジャリーブ




63 校訂およびAには節番号はないが、Mでは「第4節(bāb-i chahārum)」。本節のMの該当箇所はM: 49–52。同時代の他の簿記術指南書の梯子段方式に関する解説は、Murshid: 106a–b; Sa‘ādat-nāma: 66–67; Qānūn al-Sa‘āda: 5; Jāmi‘ al-Ḥisāb: 9; Nafā’is al-Funūn: I, 315–317.  
64 mujmalとmufaṣṣalは勘定書形式と考えられる。Aではこの2項目のマッドは「年俸」と同じ長さに見えるが、この2項目は「年俸」の内訳であり、「年俸」より短くなるべきである。Mでは、やや短いマッドで書かれている(M: 49)。   
65 校訂ではmaqṣadだが、AとMでは、mufaṣṣalと読むことができるので(M: 49)、それを採用した。   
66 AとMを見る限り「ジュッバージー jubbājī」と読むのは困難だが、他の読み方(たとえばスブヒー ṣubḥī)も決定的ではないので、とりあえず校訂の読みを採用した。   
67 校訂には給付金・俸給の額は記載されていないが、Aには5,000 d.nと記されている。   
68 Mでは工事費の下位項目として邸宅(qaṣr)ともう1項目あるが判読できなかった(M: 49)。 
69 校訂では、「露見しない(ẓāhir na-shawad)」と否定形になっているが、AとMでは、肯定型の「露見する(ẓāhir shawad)」である(M: 50)。   
70 Qānūn al-Sa‘ādaは、「一部の知識人は、内訳方式をやめた」ことを指摘し(Qānūn al-Sa‘āda: 5)、梯子段方式が内訳方式よりもあとに考案されたことを示唆する。ただし、前者が簿記術の実務で優勢になったとまでは読み取れず、併存していたことがうかがえる。   
71 校訂ではkull muqāṭa‘anと記されるが、Mではkāna muqāṭa‘anとあり、後者の読みを採用した(M: 51)。   
72 qupchūr:モンゴル語で「取り集められるもの」を意味し(村上 1970–76: II, 43)、本来モンゴル帝国においてモンゴル兵士の家畜・遊牧生産物に課された税であったが、定住民の人頭税をも指すようになった(本田 1991: 287–290)。ここでのコプチュルがどちらの意味を指しているのかは明らかではない。 
73 このmin dhālikaは「内訳」ではなく、「差し引き」を意味すると思われる。 
74 校訂ではQRSY MH?Mとなっているが、とりあえずQubrusī-yi mukhattamと読んだ。  
75 校訂ではsiyahとなっているが、AとMではsabzとなっており(M: 51)、こちらの読みを採用した。   
76 ファリース染(farīsa)とは、Sukhanによれば、ファリースという植物をもとにつくられる緑系の色素材である。
77 校訂では「有力者(kibār)」となっているが、AとMでは「パン屋(khabbāz)」となっている(M: 52)。
78 校訂ではjarītとなっているが、jarībのこと。
79 āqcha(aqča):セルジューク朝時代から使用されていた小額の打刻貨幣(Anwarī 1373kh: 61–62)。Mでは、この部分は「現行通貨で(al-‘ayn al-rā’ij)」となっている(M: 52)。
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